2010年11月アーカイブ

やんばる ロード 5

金剛石林山への入口に近づくと、かたわらに立っていたスタッフが屋外駐車場へと誘導してくれた。券売所で料金を払うと待機中のシャトルバスに乗るように案内される。

遊歩するためのベースキャンプとなる ”精気小屋” へと入場者を運んでくれるのだ。遊歩コースは全部で4つ設けられている。《奇岩巨石コース》、《絶景コース》、《森林コース》と《バリアフリーコース》の4コース。(詳しくはガイドページを参照)

                             奇石巨岩コースでのワンカット

動き出したシャトルバスは山道へと進入して行くが、大揺れに揺れる道でまるでシェーカーで振られる氷になったような気分だった。

なるほど一般車輛をパークさせ、シャトルバスで移動する必要がうなずける。

簡素なつくりの精気小屋に着くと迷わず《奇石巨岩コース》へと出発した。熱帯カルストが織りなす石灰岩の奇観が延々と展開する。

石を貫くほど生命力のあるガジュマルと奇石のコラボレーションは自然が創る美術品でもある。

緑と巨岩の白が混ざり合う風景に目を奪われるが、道程の斜度がけっこう厳しく、足元からも目を離せない。

大汗をかきながらコース終盤にある奇観の ”悟空岩” までたどり着くと、石灰カルストの石山が青空を背景にそびえていた。

悟空とは天竺(インド)まで旅をした三蔵法師の従者の名だが、その旅程に見るような景観を想いえがき名付けたのだろうか。

奇石巨岩コースの終わりはバリアフリーコースにぶつかっており、板敷きのなだらかなボードウォークが山裾を走っていた。

荒くなった呼吸を整えながらボードウォークを回遊。途中池を見下ろす場所があったがすこぶる景勝だった。池の名は ”鍋池” と云った。

カルスト地形の中で静かに水を湛える鍋池

池脇にあった東屋のような休憩所でしばらく眺めることにした。

小さな小さな池なのだが色は北海道の湖のように鮮やかな緑色で、白い奇岩に埋められた宝石のようだった。

ボードウォーク歩きを再開するとすぐに ”烏帽子(えぼし)岩” を発見した。

鋭利な刃物が空に向かって突き立っている...烏帽子よりそんな感じの岩が連なっていた。

そのあたりは《絶景コース》の出口にもなっていたので、そのまま逆行して大パノラマ展望台を目指し、もうひと汗流すことにした。

山肌を縫いながら細道が高みへとつづく。肩で息をするようになった頃にようやく大パノラマ展望台に到着した。

そして、そこから見下ろす眺望は息をのむほど素晴らしかった。


辺戸岬灯台や辺戸岬の絶壁を見渡せたヤンバルクイナ展望台すら、ここから見れば、まるでジオラマの小世界だった。ストレートに感じさせてくれた...今まで大汗をかきながら歩いた場所が何と小さなところかと。

まだ大学を卒業したての新入社員の頃、必死にしがみついていた言葉がある。 『 壁にぶつかったり、何かに悩んだり堂々めぐりを感じたら、2階に登って自分の居たところを眺めろ 』 すっかり忘れていたそんな言葉を思い出していた。

    かすかに丸くなった青く けぶる水平線や地表の緑に落ちた入道雲の影

ヤンバルの自然と空気を身体のすみずみまで取り込みながら、山を降りた。下りの道程は軽やかでアッという間に精気小屋に戻ることができた。

不足した水分をかき氷で補給しながらテラスへ出ると、犬の出迎えを受けてしまった。どことなく淋しげな表情をした犬だった。こちらから友好の情を表したのだが、反応も表情に似て極めてひかえめだった。

しかし筆者の移動するところにはそれとなく付いてきてくれる。ひかえめに距離をとって横たわるのだ。しかも視界に必ず入る場所にである。そしてじっと見つめられているのがわかる。

見つめ合うのも変なので、帰りを一気に走ろうとしている北部東海岸線のMAPをチェックしながらよそ見などをする。そのうち自然な空気感になるから不思議なものである。

しばらくそんな時間を愉しんでいたが、表の方で係員がシャトルバスの出発を知らせ始めた。ひと便遅らせようかとも考えたが、これ以上いれば必ず後ろ髪をひかれることになる。駆け込みながらシャトルバス最後の乗客となった。


「金剛石林山」のガイドページへ


ちょっと贅沢な国内旅行 style(スタイル)

やんばる ロード 6

本島北端の辺戸岬などを訪ねたあと、那覇への帰途についた。当初の予定通り、往路で通った西海岸ではなく東海岸を南走する。これで北部海岸線を一周できるというあんばいである。

辺戸岬まで海岸沿いを北へと走っていた国道58号線も、最北端ポイントからは Uターンし南東へと大きくカーブする。しかも海岸線から離れて内陸へと方向を変えてゆき、国道は深々とした山中へとつづいている。

またまた現れた。これで3つ目の”ヤンバルクイナ、飛び出し注意”の看板だった。

このあたりが一番のロードキル多発地区らしい。ゆっくり走らねば....

その国道58号線も 「奥」 という地域で突然終わってしまった。

道が終わっているわけではなく、名前が国道58号線から県道70号線となるだけで、道はそのまま南へとつづいている。

しかしこの県道70号線あたりから道はふたたび海岸線に出た。

視界の左隅に海を感じながら走っていると、《美ら海 ニライカナイの海》と書かれた立て看板が目に飛び込んできたので急ブレーキをかけ停車する。

二ライカナイとは沖縄に伝わる海の果てにあるという楽土や理想郷のことである。しかしその浜辺は理想郷のイメージには似合わないほど岩礁が荒々しく突き出した自然のままの海岸だった。地図を見るとこのあたりは赤崎という地区であった。

なおも南下していると小さな橋を過ぎた。橋のそばに見える海が妙に明るく強烈なまでに青かったので、車をむりやり路肩に止める。しばらく車中から眺めていたが、浜辺へ出てみたくなりエンジンを切った。

青一色に染められた伊江の海岸

橋の名は伊江橋といった。橋の下を伊江川の流れが海へ注ぐため浜辺へと伸びていた。水量が少ないためか流れは湾曲しながら砂地に小川をつくっている。

空と海が真っ青に溶けたなか、ひとすじの白い線ができていた。沖合には長いサンゴ礁があるのだろう、長い線となって白く泡立っている。

手前の白い浜にはひとすじの青、浜辺を横ぎる伊江川がターコイズブルーに輝く。眼の前に広がる光景は青と白が重なるバームクーヘンだった。

伊江を出て30分近くも走っているがすっかり海岸線は見えなくなっていた。県道70号線はさらに山の中へと入ってゆく。

往路の西海岸沿いの58号線に比べ、この東海岸道路は内陸側や山中を抜ける経路が多い。単調なドライブに飽きはじめたとき、安波(あは)ダムという案内板が目に留まった。

安波ダムのクレスト(下流側)

案内板に誘われるようにハンドルを右に切り、県道から離れ深緑したたる山道へと進んだ。

樹林にはさまれた坂道を登りきると大きなパーキングエリアへと出た。

車をおりて回りを見渡したが見えるのは空ばかり。それだけで自分の立っている場所が一番の高所であることがわかる。

駐車場を歩き抜けると公園のように整備された遊歩道が前方へとつづいていた。ひとっこ一人いない。

プロムナードを歩く靴音以外まったくの無音である。道路の右側に「安波ダム管理支所」があった。

しかしその建物からも人の気配は無く、まるでビデオゲーム ”バイオハザード”の舞台となった「ラクーンシティ」のようだ。

道のぶつかったところはダムの堤頂部で、足元80m下には広大なダム湖が横たわっていた。


どうやらダムの右岸からアクセスしたようで、今いるポイントは安波川の上流に貯められたダム湖右岸であった。

正直に云うと、ダムというものを見るのも堤体に触るのも初体験。小説やドキュメントに登場するダムはひとつかふたつの村を飲み込みながら、村人たちの人生を大きく変え完成されてゆくといった類のものばかりだった。ダムに関してはそんな風化したようなイメージしか無く、また特別な関心も無かった。

しかし現実のダムを目の前にして印象が一変した。不自然なほど高低差のある巨大建築物がもつ圧倒的な迫力。明らかに自然が創りだす景観とは次元を異にした人の造り出した造形である。

今日本でもっとも報道され人気が集中してきた東京スカイツリーにも同種の感慨を感じた。新聞やテレビの報道で見るスカイツリーと業平橋(なりひらばし)駅のホームから見上げる生のスカイツリーでは雲泥の差なのである。

上流側に突き出た右岸展望広場(左)、上流側の堤体全景(右)

どうやらダムにひと目惚れをしたらしい。天端と呼ばれるダムの頂上部の道路を通りダム湖左岸に行ったり、展望台で休んだり、プロムナードの端から端まで歩いたりといつまでもグズグズとしてしまった。

この北部には5大ダムがあることを知ったが、すでに遅きに失した感がある。この2カ月半はバス旅行にこだわって旅したので、初手(はな)から交通便の悪いダムを除外していたのだ。

結局、陽が暮れなずむまでこのダム湖の右岸展望広場に居つづけ、長い一日の最後にした。この間、ただのひとりも人と会うことはなかった。

             陽が傾きはじめた右岸展望広場


「安波ダム」のガイドページへ


やんばる ロード 7

今回もひきつづき北部へのレンタカー旅をプランし早朝より出掛けた。見学するには時間がかかるため前回パスした「比地大滝」が本日のメインである。レンタカーで楽に移動できるので、多少の体力消耗ならと、たかをくくって大自然遊歩を決め込んだのだ。

ルートは前回同様に国道58号線をまっすぐ奥間の交差点まで北上する。左はオクマビーチへ、右は比地のキャンプ場へと分かれる。信号を右折し比地へと向かった。

しばらく走ると奥間川と交わり、なおも行くとふたたびもうひとつの川に出会った。この川が比地(ひぢ)大滝から西流してきた比地川である。

                        ゲートを入ると そこはキャンプ場入口

道は比地川により添うように並んで伸びており、川に沿って走ること数分で目的の比地キャンプ場に到着した。

メインオフィスのある管理棟はログキャビンづくりである。テラス兼備の食堂にシャワーやトイレなども備えている。

ゲートで入場料を支払っていると壁に貼り出された注意書きが目にとまった。

「心臓病の方」「体力が心配な方」「妊産婦の方」はご遠慮くださいとあった。しかも赤字である。

また大きな文字で「ハブ」「ヒメハブ」に注意! その横にはご丁寧に10種くらい図解入りで、このあたりに出没する蛇の特徴が説明されていた。

自慢じゃないが、こちらは生来、頭も気力も丈夫なほうではないのだ。逡巡する身体にムチ打ちゲートをくぐった。

敷地内の最初にあったのはキャンプエリアで、テントを張るキャンプ台がそこここに設置されている。大滝までのコースはこのキャンプ場を抜けて行くようだ。

ところどころ張られたハンモックで寝ている姿がとても涼しげな風景をつくっていた。キャンプ域を出ると登り道が始まり先の方にはミニダムのような小さな堤防が見えた。

比地川砂防ダム

その堤防の近くに説明板があった。高さ10m 、幅63m のミニダムの名は比地砂防ダムといった。

近づくと堤の右岸側に細い魚道が設けてあり、この水流を 《リュウキュウアユ》が産卵のため さかのぼると書かれていた。

道はすこしづつ勾配を増しながら山の中へと入ってゆく。広かった空もしだいに狭くなり樹林に覆われてしまった。

そのあたりから道は木造りのボードウォークに変わり、かなり歩きやすくなった。

入口から大滝までの距離1.5 kほどだが、その間の道は自然道とこのボードウォークの組み合わせになる。

序盤こそ森林浴を楽しみながら歩いていたのだが、高低差の激しい行程に息が弾んできた。

ところどころにある階段も斜度が激しく、まるで ”はしご” かと思いたくなるようなしろものが出現するのである。しかも長〜いのだ。

ハンカチなどでは間に合わない量の汗が噴き出してくる。かなり肩で息するころになると東屋が現れた。そこに飛び込み ひと呼吸だけ休むことにした。休憩所はこの後に もうひとつあるのだが、バテるのを計算予測したかのように絶妙なポイントに建っている。

この東屋での小休止は、静かで穏やかで清浄な別世界だった。普段はおびただしいほど雑多な音に囲まれ生活をしている。その雑音すら気にならないほど馴らされてしまったわれわれ現代人。 無音室(無響室)というものに入ると、10分で落ち着かなくなり、30分も居れば我慢できなくなるという。

無音室はすこし極端な例だが、いずれにせよ多少の音楽や騒音の聞こえる環境の方が落ち着くものらしい。今まで漠然とそう思っていたのだが、どうやらそうでもないようだ。

                        比地大滝つり橋から上流方面の眺望

このヤンバルの自然のなかで動きを止めると、一気に静寂に飲みこまれてしまう。

しかし不安になるどころか神経は穏やかに落ち着いてくる。静寂には水のせせらぎや小動物の声などが、うっすらとかすかに含まれているからだろうか。

第1の休憩所を出るとすぐに大きなつり橋に着いた。比地川を横断する長さ50mのつり橋である。

川の右岸に沿っていた遊歩道がこの橋を渡り、今度は左岸を上流に向かって伸びてゆく。

高さも15m以上はあるだろうか、足元が揺れながら渡るつり橋も一興。

つり橋を渡りしばらく歩くと川の岸辺へと降りられるポイントがあった。

山歩きと暑さですっかり蒸されてムクんだ足を冷やしたくなり水ぎわへと降りた。裸足になり石づたいに快適なポジションを探した。

腰かけながら流れに足をつけられる岩を発見。ヒヤリとした感触の流れが足をくすぐってゆく! 心地良さ200%!

そのまま岩の上に仰向けになると、真っ青な空から深緑の樹林が滝のように降りかかってくる。顔の上をすべる風も清爽で、つい不覚にも眠ってしまった。

目を開けると太陽の位置がずれており、時計を見ると40分近くも眠っていたようだ。よく川のなかに転げ落ちなかったものである。

変化に富む比地川の流れ

鋭気をとり戻し大滝目指して再出発した。 はずなのだが、前行程にも劣らぬ高低差の激しさで、途中何度か休むありさまであった。

休むたびにこの川の流れを鑑賞してみたが、実に変化の多い川で飽きのこない表情をいくつも見せてくれていた。

比地川は与那覇岳を源流として全長7.6 kを流れて東シナ海へと流れ込んでいる。

水量の多い川だから滝をつくったりしているが、場所によっては途切れそうなほど細い流れになったりして、小川のような風情も見せてくれる。

ほぼ後半には休みを取らずに大滝まで一気に歩き通したが、沖縄歩きに慣れた体力でも厳しい道行きであった。

大滝が見えてくると行程がきつかった分だけ、それなりの達成感が湧いてくるのだ。

小さい滝だが形はよく、遠目でも温雅な景観をしている。

岩場を伝いながら滝つぼ近くまで行ってみたが、落ちた清流が飛沫となって中空を舞っていた。陽を浴びた飛沫が輝き、マイナスイオン満開だ!

もっともマイナスイオンについて、効用の真偽を巡り学会で論争されているが、この際そんなことはどうでもいいのである。気を充溢させてくれれば、それだけで充分に効用はある。

片道に1時間弱かかる小旅行だが、確実に非日常感を味わえる貴重な大自然遊歩道であった。

            遊歩道の最終ポイント、比地大滝


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