8つの尖塔が空に伸びる浦添市美術館        〜沖縄ちょぼ旅 BLOG 103〜

樹木に囲まれジオラマのような景観の浦添市美術館

長期滞在中の筆者を訪ねるという友人からの電話を待っていた。3ヶ月になんなんとする沖縄滞在もあと1週間ほどとなってしまった。友人は筆者の最後の1週間に訪れようというわけである。香港から東京へ戻り、寸暇なく乗り継ぎ那覇へ来るというから、相当バタバタしているのだろうか。

空港までピックアップに行くつもりであったので、、遠出もならず近場に出かけることにした。心の片隅にしまっておいた訪問したいある場所を思い出した。那覇の隣街になる浦添にある美術館である。

美術館尖塔内部のらせん階段

お目当てはその美術館が収蔵している葛飾北斎の描いた「琉球八景」である。以前より 『北斎漫画(スケッチ画集)』 にぞっこん惚れこんでいた勢いでひと目 観たいと思っていた。

ただしこの「琉球八景」は北斎の妄想の産物である。彼はただの一度も沖縄に来島せず、生来の好奇心に背中を押されて「琉球八景」を描いたと云われている。

美術館に着くと、その建物の外観の美しさにしばし時間を忘れ外周を回ってしまった。まるでアラビアンナイトの挿絵にしてもいいような風景であった。

北斎のためにこの美術館を訪問したのだが、ついこの新しい建築物の方に強く惹きつけられていた。

尖塔に入ると、上へ上へとつづく らせん階段を無意識に登っていた。何ひとつ目をひくものの無い簡素な階段がかえって小気味がよい。

塔の最上階にうがたれた小窓から外を覗きこむと、雲が垂れこむ空に塔がアニメのような情景をつくっていた。


静まりかえった塔内で電話の受信を知らせる振動音が、異常なほど大きく響いた。

待っていた友人からだった。驚いたことにすでに那覇に着き ホテルに入ったばかりだという。

宿は那覇に着いてから決めたらしい。筆者の滞在する「おもろまち」からひと駅の「安里(あさと)」にあるホテルとのことだった。

かなりの強行軍だったらしく今日はホテル周辺で静かにしていると殊勝な雰囲気だ。

翌朝そのホテルへ車でピックアップに行くことを約して電話を切った。旅慣れた友人の鮮やかな訪問ぶりだった。

おかげで半日の自由時間ができたので、世界遺産にこそなっていないが、目下復元中と聞いている本島南部の知念城跡を訪ねることにした。

「琉球八景」の鑑賞を早く済ませようと美術館入口へと急いだ。

正面ゲートの入口に着くと、想像だにしていなかった 《四大浮世絵師展》 のポスターが貼りだされていた。

この企画展覧会は2ヶ月前、すでに東京の大丸ミュージアムで鑑賞していた。中右(国際浮世絵学会常任理事 中右氏)コレクションが全国を巡業しており沖縄まで来ていたのである。

美術館正面入口には 《四代浮世絵師展》 の ポスターが

東洲斎写楽、喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川広重の4人展だ。

たった10ヶ月だけ活動し145点の作品を残し忽然と姿を消した写楽。

正体不明の写楽がミステリアスなことは周知の通りだが、作品の多面性やその生きざまでもっともミステリアスなのは北斎が群を抜いている。

東京での中右コレクション展示は、ビギナーに優しいだけでなく内容も充実していた。

係員に「琉球八景」のことをたずねるとこの期間には展示される予定はないとのこと。

躊躇なく南部の南城市にある知念城跡に照準を切り替える。国道330号線に出ると一路南をめざしてアクセルを踏み込んだ。

首里近くの鳥堀交差点を過ぎる頃には頭上ちかくまで垂れこんでいた雨雲がすっかり雲散霧消していた。陽光をとり戻した空の下、さらに30分のドライブ。ようやく着いた知念城跡はまさに工事中といった風情をぷんぷん匂わせていたが、多くの来訪者で賑わっている。

城跡に着くまでは山中での工事現場を歩くか、心細くなるよう山道を歩くかのようであった。石組が見えはじめて城跡にたどり着いたと実感できるような復元途中の城跡であった。

そこは聖地の久高島や斎場御嶽(せいふぁーうたき)も みはるかすことのできそうな高所であった。すでに復元工事が始まって時が経っているはずだがいっこうに進捗がない感であった。

               鋭意 復元中の知念城跡

眺望を愉しんでいると後ろから声がかかった。振り返ると満面に笑みを浮かべた老爺が立っている。還暦をとうに超えたと思しき、小柄だが真っ黒に日焼けした偉丈夫だった。話しかけてくれているが言葉の方言の強さでほとんど理解できなかった。

しかし、こちらの返答の有無など気にもかけずに語りかけてくれた。それがとても嬉しかった。

彼の後ろで寄り添っていた老婦人が、標準語を探すように とつとつと通訳をしてくれた。無口な様子の彼女が見るにみかねてその労をとってくれたのだ。

知念城跡での酒宴の場所から臨む海原

お二人はご夫婦で幼い頃より大好きであったこの城跡を訪ね、酒盃をかさねることが唯一の楽しみだと教えてもらった。

見ると足元に焼酎の一升瓶が一本立っている。彼らは大切な酒宴になぜか筆者を選んでくれた。

勧められたお酒は「車で移動しているから」と断ったのだが、なぜか去りがたく、彼らとしばらく時間を一緒に過ごすことにした。

突然 話は変わるが、以前米国ロスに駐在中、何度も本気でアメリカ人と口論をしたことがある。

ネイティブスピーカー(母国語を話す人)でもない日本人の我々にとって、喧嘩の時ほど外国語が通用しないことを痛感させられたことはない。


英語での表現を考えているうちに怒りの感情が急速に引いてしまうからだ。感情の表現は理屈ではないのである。

怒りの表現が相手に伝わらなくなってしまうから日本語でもかまわないから怒りにまかせて吠え声をあげることが肝要なのだと直感した。語調や表情から十二分にその感情の迫力がアメリカ人に伝わってゆく。その反動のおかげで、アメリカに友人ができたりもするのである。

間違いなく言語を超える瞬間というものが世の中にはある。人間が持つささやかで数少ない能力のひとつなのだと思う。

知念城跡の酒席で彼らと過ごすうちにそんなことを想い出していた。言葉を必要としない芳醇な時が小一時間近く流れていた。

まぶしいほど直線的な彼らのまなざしに別れを告げ、熱くなった気持ちを糸満港の「丸三冷物店」の大盛りかき氷で少し冷やして帰ることにした。



浦添市美術館

住所 浦添市仲間1-9-2
電話 098-879-3219
観覧料
一般 150円 大学 100円 以下無料
開館時間

9:30~17:00 (金曜 ~19:00)

交通
 車 那覇空港より 30分(国道330線を北上)

 BUS 那覇BT 35分(城間線91番・牧港線55番他)バス停 「美術館前」下車徒歩5分



知念城跡

住所 南城市知念字知念上田原
電話 098-947-1100(南城市観光・文化振興課)

見学自由

交通
 車 那覇空港より 55分(国場から南風原へ国道331線を南下

 BUS 那覇BT 65分(志喜屋線38番)バス停 「久美山」下車徒歩20分


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